不動産事件への取り組み

2011(平成23)年7月15日は、日本の賃貸住宅業界にとっても、私ども九帆堂法律事務所にとっても、忘れることのできない画期的な記念日です。午後1時30分、最高裁判所第2小法廷(古田佑紀裁判長)で賃貸住宅の更新料特約を有効とする判決が言い渡されましたが、私は家主側弁護団の一員として、この歴史的な瞬間に立ち会える栄誉に浴することができたのです。

長い長い更新料裁判に終止符が打たれ、賃貸住宅業界は、大きな混乱の渦にのみこまれずにすみました。更新料特約は首都圏や関西圏などで商慣行化しており、該当物件は100万件に上ると言われています。もしも仮に更新料特約が無効と判断されていれば、消費者契約法が施行された2001(平成13)年まで遡って、すでに支払われた更新料の返還が求められることになっていました。今頃は、「更新料を大家から取り戻そう」という弁護士の広告が街中にあふれていたことでしょう。

この更新料訴訟は、賃貸住宅の更新料支払いを義務づけた特約条項が有効か否かが争われた裁判です。消費者契約法第10条は、「消費者の利益を一方的に害する契約は無効」と定めており、更新料がこれに該当するかどうかが争点となっていました。最高裁に上告されていたのは3件の事件で、第2審の大阪高裁では、2件で無効、1件で有効と判断が分かれており、最高裁の判断が注目されていました。

最高裁判決の前は、多くのマスコミが私ども九帆堂法律事務所にも取材に来られました。また、多くの不動産会社から講演依頼があり、私もかなり忙しかったのを覚えています。

更新料を無効とした大阪高裁は、①更新料は何の対価なのか不明瞭、②不明瞭なものに対する価格として高額、③更新料を取得する反面で月額賃料を安く見せかけ不当に入居者を誘引、④更新料を支払わないと更新させないという誤った印象を与えているなどを理由に、更新料は消費者(借主)の利益を一方的に害する特約であると断じていました。

勝訴判決後の記者会見(司法記者クラブ)写真提供:共同通信社週刊東洋経済 2011年7月30日号。
写真提供:共同通信社

最高裁は、更新料を有効と判断しました。

静まり返った小法廷の空気は、一瞬にして緊張感から解放されました。私たち弁護団は、すぐに判決書を入手し、弁護士会館に移動して判決の分析を行いました。最高裁の判断は、簡単に言えば、「無効としなければいけないほど悪い物ではない」というものでした。

その後、東京地方裁判所内の記者クラブでの記者会見に臨みました。家主側弁護団の祝勝ムードとは対照的に、何故か記者席は冷めた感じでした。おそらく、「今まで通り」という判決にはニュースとしての面白さは無かったのだと思います。質問も多くはなく、あっけなく終わろうとしていました。そのとき、私はどうしても発言しなければならないと思いました。

今回の最高裁判決は、「家主のみなさん、素晴らしい」と褒めてもらったわけでは決してありません。ただ、「無効としなければいけないほど悪い物ではない」というだけのことです。賃貸ビジネスとして、最高裁まで争わなければいけないようなやり方は、業界として反省すべきです。褒められるような業界にしていくために、これからが大事なのだと思います。

このようなことをしゃべったのだと思います。

この発言に対して、後日、数社のマスコミの方々から取材と激励を受けました。

あれから3年が経ちました。業界は良くなったでしょうか?

賃貸業界の問題点は、「更新料」問題だけではありません。むしろ山積です。私ども九帆堂法律事務所は、2011(平成23)年7月15日の緊張感を持って、褒められるような業界にするために、今後もメッセージを発信していく責任を負ってしまったと感じています。

2014年(平成26年)7月

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